レインボウ・ジャーニー

アセンションをご一緒に!Yahoo!ブログで13年間続けてきたブログを今回こちらに移行しました。主に"目覚め~despertando.me”などからの転載記事になりますが、折りを見て自分の文章も織り交ぜていこうと思っています。魂の旅は、まだまだ続きます……。

シティ・オブ・ゴッド

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 シティ・オブ・ゴッド(原題:Cidade De Deus)
 2002年 ブラジル映画  監督;フェルナンド・メイレレス

 この上なく臨場感に満ちたノンフィクション・ムービー。

 この映画をひと言で表現しようとすると、この言葉を選ばずにはいられない。
 ”臨場感”。
 それは、クールでスタイリッシュなカメラワークやカット割り、編集の巧みさによる絶妙な効果なのだろうけど、もう何といっても冒頭のシーンから、あっという間に映画の世界に引き込まれてしまう。まるで自分が現実にその場所にいるかのような錯覚を起こしてしまいそうになる。

 舞台は、リオデジャネイロの郊外に建設された新興住宅地、”シティ・オブ・ゴッド”。「神の街」という名前とは裏腹の、洪水や放火で住むところを失った貧しい人々が送り込まれてくるスラムだ。物語は、その街で生まれ育った少年たちの姿を描いていく。
 原作は実際のシティ・オブ・ゴッド出身であるパウロ・リンスによるノンフィクション。登場人物600人という、壮大な物語だ。映画を観た後は、この原作もいつか読んでみたいという気にさせられる。(何といっても登場人物600人ですよ、600人。スゴクないですか?)
 
 リオのカーニバルで世界的にも有名な観光地であるリオデジャネイロは、高級ホテルが立ち並ぶ海岸沿いからちょっと内陸に入ると、危険なギャングたちが跋扈するスラム街に一変する。地元の言葉では(ブラジルのポルトガル語という意味ですね)このスラムのことを”ファヴェーラ(貧民地区)”と呼ぶのだそう。
 この「神の街」の異様なところは、いわゆるギャングと呼ばれている者たちがみんな、子供だというところだ。十代前半とおぼしき子供たちから、まだオムツもとれてないんじゃないかと見える幼子までが、日常的に麻薬をふかし、商店を襲撃して物やお金を強奪したりする。銃やコカインも、すぐ手の届くところにある。物語の中を通して、暴力とドラッグが横行する世界が描かれている。
 
 実は、私がこの映画を観てみようと思ったのは、”ブルー・スプラッシュ”というサーファーガールを描いた作品の最後に入っていたCMを見たのがきっかけだった。それは小さい男の子が、少し年上のお兄さんとも呼べるギャングに銃を持たされ、自分よりも小さな男の子二人のうち「どちらか一人を選んで打ち殺せ」と迫られているシーンだった。(物語の展開には大きく関与しないシーンなので、ネタバレにはならないと思うので、敢えて書かせてもらいます。)そしてそこでコマーシャルフレーズ。
 「直視出来るか、これが現実だ!」
 その短いCM映像の中に、すでに怖いぐらいの臨場感がみなぎっていて、夢に出てきそうな勢いだった。”ヤバイ。コワイ。でも絶対観たい!”と思ってしまった。現代のブラジルのスラムの生の現実。もともとドキュメンタリーとか見るのが好きなところがあるので、しかもその上「直視出来るか?」と言われたら、”直視してやるぞ!”みたいな、ものすごく強いインパクトを受けたのを今でも忘れられない。

 だけど、実際DVDをプレイヤーにさし込んで、映画が始まる時にはやはり少しビビった。静かに深呼吸をしたりして、心の準備をしたものだ。
 …でも、不思議や不思議。いったん観始めてしまうと、そんな風に覚悟をしたのをはぐらかされるかのように、映像はきれいだわ(色彩とか、ロケーションとかですね)、場面展開はスピーディだわ、ストーリーテリングには工夫が凝らされているわ、そして音楽は底抜けに明るいわで、悲惨なスラムの現実を描いた映画だってことを忘れてしまうくらいだった。
 特にそのカメラワーク。色んな動きで、速さで、角度でホンっとにまさに”縦横無尽”に走りながら場面場面を撮っていて、一瞬も飽きるヒマがない。
 確かに劇中には、銃撃シーンや殺された人の死体がゴロゴロ転がっているシーンや、人が死ぬ時の生々しい映像などがわんさか出てくる。ジャンキーなんて、街の人間には日常茶飯事という感じで、そんなことまるで普通みたいだ。でも、そんな環境でもそこで暮らしてる、生きてる人達がいるんだ、ってことを思い知らされる。特に、その環境で大事な成長期や思春期を過ごしている少年たち(少女たち)がいるんだ、ってことを。その街では、暴力が正義、麻薬の元締めが王様。みんな敵になる人物を殺したい、そしてのし上がりたいと思っている。
 そしてその少年たちの笑顔はとても明るい。彼らの生きてる現実からは想像もつかないぐらい、普通でかわいい。銃がなければ、そのへんのガキ大将が子分らを引き連れて歩いてるのと変わらないんじゃないかと思ってしまう。

 魅力的な主人公たちも登場する。

 この映画は、ブスカペ(花火)という名の真っ黒い黒人の男の子が主人公という設定のようで、彼が全ての物語の語り手をつとめる。ブスカペは、神の街では少数派の、”銃もギャングも苦手”な男の子。スラムを出てカメラマンになることを夢見る。

 一応ブスカペくんがメインキャラクターのようになってはいるが、その実彼と同格の主人公は他にも沢山いる。まず神の街のボスを夢見、それを強引なやり口で実行に移してしまう、ブスカペと同年代のリトル・ダイス。彼は後に、怪しげな導師から呪術による力を授けられ、リトル・ゼと改名する。 

 リトル・ダイスのちにリトル・ゼの幼い頃からの無二の親友、ベネ。ベネは劇中一の魅力的キャラクターで、おしゃれに目覚めれば恋もする。といってもただの洒落男ではなく、男としての優しさや友情の厚さも併せ持っている。鑑賞中、私はこのベネに、ちょっと恋をしていた(=_=)。ベネもリトル・ゼの親友であるからもちろんギャングで、リトル・ゼが神の街のボスとなってからは、二人でスラムの財と権力を欲しいままにしていたわけなのだけれど、ギャングなのにとにかく優しく、皆から好かれ、「街で一番のいい悪党」と呼ばれたりする。ベネには冒頭の「優しき三人組」の物語に登場するカベレイラ(ポルトガル語の音声では、何回聞いても”カベリエラ”と言っているように聞こえるんだけどなー…どうして”カベレイラ”と表記するようになったのだろう?ずっと不思議です。まあ、ちっちゃなことですが…)という兄貴がいる。カベレイラも三人組の中では一番優しく、恋をしたりハートのある男だった。

 その他にもサブメインキャラとして、麻薬の元締めセヌーラ(にんじん)、元軍隊にいて射撃の腕には自信のあるバスの切符切りの男”二枚目マネ”、リトル・ゼが手に負えないガキ軍団を手中に収めるために利用する”ステーキ”(私が最初にCMで観たコです)、ブスカペの初恋の人アンジェリカ。彼女は可愛くて、この男だらけの映画の中に一筋の光を放ってくれているような気がする。(又は、余りにも男だらけだから余計に可愛く見えるのか…?わからないけど)

 と、まあ、こんな風に、登場人物たちがこうまで皆個性的な映画も珍しいのではないかと…思っていたら、なんと、このヒトたち、役者ではなくて、全員ホンモノだったんです!
 なんとメイレレス監督が自ら神の街の子供たちにオーディションを行い、2000人の中から選抜しキャスティングしたんだそうです。その子たちに9ヶ月間で演技指導をし、4ヶ月のリハーサルののちに9週間ほぼオールロケーションで作品を撮り上げた…と…。
 もちろんその役をやったコとホンモノとは違いますが、例えば映画の最後の部分に抗争中の本物の”二枚目マネ”の映像が流されていたり、あ~本当にあった出来事なんだ~、と、舌を巻いてしまいます。(ちなみに映画の中のマネより実際のマネの方が男前だと私は思いました(笑))

 こんな風に、テーマはもちろん製作過程からして観客の度肝を抜く、これはスゴイ映画です。ここに書いただけでは映画の内容は「何のこっちゃ」ってカンジでわからないかもしれませんが、と・に・か・く色んな要素で魅力的な作品です。映画よりもドキュメンタリーの方が好き、なんて方にもオススメです!

 そして、映画でもありドキュメンタリーでもあるこの作品、もうひとつの見方として言えば、”神の街”で生まれ育ち、思春期を過ごした少年ブスカペの一大成長記でもあると思うのです。ギャングが嫌いで(というよりは“苦手”と言った方が正しいのかな、神の街ではギャングと関わらずに暮らせる少年なんていないのだから)、いつもスラムから出て行くことを考えていた彼が、スラムの中で生涯の夢を見つけ、初恋を体験し、そしてある意味ギャングのおかげとはいえ、夢を実現する。

 ”ファヴェーラ(貧民地区)”の現実をリアルに臨場感たっぷりに描いたこの映画が、観終わった後に微塵も後味の悪さを残さないのは(むしろスカッと爽快でもある)、このブスカペの成功物語のおかげかもしれません。彼は運が良かっただけ、と言えばそれまでですが、悪の道に染まりたくても染まれない、根っからの善人という子供もファヴェーラにはいるわけです。その子がいつかスラムを出て、自分の望んだ方向に人生を切り開いていったというエピソードは、ファヴェーラに暮らす人々に一筋の希望を与えないでしょうか。

 だからこの、ホントいうと目を向けたくない、光を当てたくない部分の現実を扱った、硬派で社会派なテーマの映画が、ブラジルで多くの観客動員数を得ることになったのではないかと思います。

 まあ、言ってみれば娯楽の一つである映画として、魅力的でスタイリッシュな作品として是非鑑賞してみて下さい。そして、世界の中のひとつの社会の現実を忠実に描いたドキュメンタリーとして”直視”して下さい。