レインボウ・ジャーニー

アセンションをご一緒に!Yahoo!ブログで13年間続けてきたブログを今回こちらに移行しました。主に"目覚め~despertando.me”などからの転載記事になりますが、折りを見て自分の文章も織り交ぜていこうと思っています。魂の旅は、まだまだ続きます……。

もう、秋ですね。芸術の秋は、村上春樹で。

 みなさん、こんにちは。早いもので、もう夏も終わりですね。というわけで、ブログを衣替えしてみました。秋の夜長にワインでも飲みながら、読書に耽るのもいいものですよね…。

 最近読了した小説の一つ、村上春樹の初期作品集、”象の消滅”を紹介したいと思います。
 村上氏の淡々とした文体、独特の奥行きある乾いた”読感”は、秋から冬にかけての気分にピッタリくるんですよ。元々大好きな作家なのですが、特にこの季節に読むと、気持ちが入ります!


象の消滅”は、1980年~1991年にかけて書かれた短編を集めたもので、1993年にアメリカのクノップフ社から出版されたものの日本語版である。と言っても、アメリカ版というのは村上氏が元々日本語で書いていたものを英語に翻訳して出版しているわけで、今回日本語版を出版するに当たっては、元々日本語で書かれたもの(オリジナル・テキスト)をそのまま(多少の例外はあるそうだが)収録しているということだ。しかしラインナップ(目次のレイアウトということかな?)も、収録順序も英語版そのままの形にしてあるということで、英語版に対する氏の感謝と愛着とがうかがわれる。当時アメリカで自分の本が出版されるということにかけて氏が抱いた喜びと感動が伝わってくるようだ。

 ”象の消滅”というのはそれらの短編の内の一つの題名で、英語では”The Elephant Vanishes”となっている。この17の短編集の、一番最後に付されている一編である。他の全ての作品にも、英語もしくはフランス語の題名が併記されている。

 この作品集の中には、以前から私が知っていたものや、お気に入りだった作品、そしてまだ読んだことのなかった作品が収められていた。

 全体的に読んでみて、中には感心を引くものもあったが、やはり私が好きなのは、昔から好きで繰り返し読んできているような作品であるようだ、というのが正直な感想だ。そしてやはり初期の作品ということもあって、中には”今イチ”と言ってしまわざるをえないような作品もいくつかはあった。

 私は本来村上春樹の割とコアなファンであると自負しているので、こういうことを言うのは心苦しいのだが、このブログには自分の感じたことを包み隠さず書こうと決心しているので、口頭などでは言いにくいようなことでも、思い切って書いてしまおうと思う。

 春樹さんごめんなさい。

 まず、以前に読んだことのあるもので、それほど”お気に入り”というわけではない作品たち。

 *ねじまき鳥と火曜日の女たち ~The wind-up bird and Tuesday's women~
 *パン屋再襲撃 ~The second bakery attack~
 *レーダーホーゼン ~Lederhosen~
 
 ”ねじまき鳥と火曜日の女たち”については、その数年後出版される”ねじまき鳥クロニクル”の前触れともなる作品である。こちらはなかなか読みごたえのある3冊のシリーズもので、私は全巻ハードカバーでそろえているくらいハマった作品なのだが、この小説自体、このさきがけの文章”以後”の展開が面白くなっていくので、短編として完結するこの作品にはあまり評価をあげられないというのが現実だ。

 そして、今までに読んだことのないもので、読んでみても、実際あまり感銘を受けなかったもの。

 *カンガルー通信 ~The kangaroo communique~
 *眠り ~Sleep~
 *緑色の獣 ~The little green monster~
 *ファミリー・アフェア ~Family affair~
 *TVピープル ~TV people~
 *中国行きのスロウ・ボート ~A slow boat to China~
 
 初めて読んで、ちょっと好きだったもの或いは感銘を受けたもの。

 *四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて
  ~On seeing the 100% perfect girl one beautiful April morning~
 *ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーポーランド侵入・そして強風世界
  ~The fall of the Roman empire, the 1881 Indian uprising, Hitler's invasion of Poland, and the realm of rag  ing winds
 *窓 ~A window~
 *午後の最後の芝生 ~The last lawn of the afternoon~
 *沈黙 ~The silence~
 *象の消滅 ~The elephant vanishes~ 

 前々から好きで何度も読んでいるもの。今回も読んで新たに”好きだなぁ”と思った。

 *納屋を焼く ~Barn burning~
 *踊る小人 ~The dancing dwarf~

 この、”納屋を焼く”という作品は、初めて読んだ時から何故か心惹かれて、以来繰り返し繰り返し読んでいる。初めて読んだ時は大学生だったから、もう10年以上前になるのだが、情景といい心理をつつくようなインパクトといい、今でも色褪せることなく私の心の中に焼きついている。他にもこれと並ぶ不思議に印象的な作品が村上春樹作品にはあるが、そちらはまた別の機会に紹介させていただこうと思う。
 
 ”踊る小人”は、のっけから日常生活とは離れた別世界に連れて行かれる。というか、既に連れて”行かれて”いる。
 小説の舞台はとある”象工場”。村上氏の作品、特に初期の頃の作品にはこのように”象”がよく登場する。氏は象という生き物に、ある種の憧憬的嗜好的なこだわりを持っているようだ。心理学的に研究したら、面白いのかもしれないけど…。とにかく、話の中で、主人公はこの象を”水増し”する為の工場で仕事に従事している。象を初めからつくるのではなくて、1頭の象から5頭の象をつくる、という設定の仕方もまたユニークだ。象工場には”酒場”や”舞踏場”があって、一つの”革命”を境にして人々は生きている。”革命”の前には、”帝政”があった。そういったひとつひとつの名称の組み立てと物語の運び方が、何故か私にはメルヘンを連想させる。物語自体よりも、その”世界”に満ちる空気感を味わいたい作品だ。こんな風にメルヘンを連想させる短編は他にもあるのだが、その作品はこの短編集には収録されていないので、上に同じくまた別の機会に紹介させていただこうと思う。